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胎動(11) [胎動]

2005/2/25(金) 15:03 投稿:和島英樹  記事URL トラックバック ( 0 ) コメント ( 6 )

中井戸は読み終わるとデスクの日高のところへ行き、ファックスで送られてきたものを渡して、感想を求めた。日高は中井戸よりも7歳年上なので、佐藤についての知識や情報量は多いはずだ。

日高は一通り読んだ後、
「まず、この入会勧誘は本物なのかを調べる必要がある。次に、本当に無料の勉強会なのか。前回の仕手グループの時には特別会員、A会員、B会員、一般会員とランク付けして、それに応じた会費を徴収していたはずだ」
「ランク付けですか」と中井戸が口を挟む。
「そうだ。佐藤が仕手グループ『日誠』というのを率いて、野島鉄鋼株の仕手戦をやったのを憶えているか」
「私は直接には知りませんが、いろいろな人から概要は聞いています」

「その時、相場に勝つ寸前に会社側の増資と大手証券の売りという攻撃を食らって潰されたんだ。そして脱税で捕まった。当局では本当は株価操作での立件を狙っていたんだが、証拠が不十分だったらしい。佐藤を株価操作で立件したら、売り崩した大手証券も無傷では済まないという事情もあったとの指摘もある。
それはともかく、佐藤は検察庁で特別会員とA会員が誰だったのか、一切答えなかったという。自分ひとりが罪をかぶったわけだ。これが佐藤の名前をさらに市場で広めることになった。特別会員には政治家や事業会社のオーナーなんかが数多く登録されていたというからな」

日高と中井戸の会話を聞きつけて数人の記者が回りを取り囲み始める。その中の一人、紺野が聞いた。
「じゃ、B会員とか一般会員というのはどうなっていたのですか」
「仕手グループにとって、言い方は悪いが雑魚なんだ。月額いくらとかのわずかなお金しか払っていない連中が対象だが、特別会員が最優先情報を入手し、順に伝達が遅くなる。つまり、最後に買わされる投資家ということになる。その人たちは佐藤を相当に恨んでいるじゃないかな。でも、このファックスが本物だとしても、本当に無料なのか。よくわからんな」

そこで紺野が「私、佐藤を取材してみようかな。面白そうだし――」と何気なくつぶやいた。その瞬間、日高の血相が変わった。椅子を蹴って立ち上がり、
「だめだ、絶対にだめだ。それだけは。俺たちは証券専門紙の記者なんだぞ。一般紙の連中が興味半分に行くのは構わないが、それを俺たちがやったら致命傷になりかねない。それがわからんのか」日高の顔は怒りで高潮し、机の上で握ったこぶしが震えている。そして、「いいか紺野」と説き伏せるように説明を始めた。

証券専門紙は独自に取材して、ある企業が面白そうだと思ったら、その企業の記事を大きな扱いで掲載する。これは広告局の圧力もなければ、証券会社の営業戦略にも乗せられない、編集局の独自の方針で決められる。そうでなければ個人投資家はついてこないし、原稿の信ぴょう性を疑われる。ましてや仕手筋との関係が、取材という形でもできてしまえば、大きく扱った記事が、「どこかで仕手とつながっているのではないか」との疑念を生みかねない。実際には関係なくても、仕手側が「あの記事は実はうちが書かせた」などと悪意の情報を流さないとは言い切れないのである。日高の強い口調はそういう意味だったのである。

日高の怒りが説教口調になったところで、各記者は自席に戻った。そこで中井戸は、知り合いの投資顧問社長の朝原に電話をした。投資顧問とはいっても、大量の資金を動かすような大手ではない。一任勘定(投資家から直接お金を預かって運用する)免許のない助言業務(銘柄の情報を提供する)だけの小さな投資顧問である。

「朝原さん、佐藤崇が動き出したのを知ってますか」
「何となくは聞いている。一声の会とかを作ったんだろ」
「さすがに情報が早いですね。そこで、折り入ってお願いがあるのです。気は進まないかも知れませんが、その一声の会に入会してもらえませんか。会のうたい文句には無料なっていますが、もし、費用が発生するようなら、私が責任をもって負担します。もちろん、交通費などの雑費もです」

 電話口の向こうでは少し考えている様子だったが、しばらくして
「わかった。そこで情報を取って来いというわけだな。もしかしたら自分の仕事にも役に立つかもしれないし、やってみようか」
「ありがとうございます。ついでといっては何ですが、適当な名前でもう一人分、入会しておいてもらえませんか」と、日高や紺野の視線を気にしながら付け加えた。
「何かあれば、あんたも出てくるというわけか。それでさらにやる気になった。くれぐれも、金は頼んだぜ」といって朝原は電話を切った。その時、横で田代がこちらを向いて、何もいわず、にやりと笑った。

次を読む〜「胎動(12)」


 

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1Re: 胎動(11)

面白そうな小説ですね。期待しています。
ところで、胎動(1)は、もう読めないんでしょうか?

2005/2/26  13:31  : オラシオン / 編集

2Re: 胎動(11)

一気に2から11まで読みました。
改めて、あの年は激動の一年でしたね。
今後も時代風刺をからめて株の世界の話を楽しみにしています。

2005/2/26  14:35  : オラシオン / 編集

3Re: 胎動(11)

その当時のこの世界をまったく知らない者ですが、興味深く読ませていただきました。今後の展開を楽しみにしています。
お忙しい中、フル稼働ですね。お体、壊さない様お気をつけください。

2005/2/26  23:28  : ハリーポッター / 編集

4Re: 胎動(11)

羅針盤なき連載なので、感想をいただけるのは本当にありがたいことです。少しずつ盛り上げようかな、などと考えているところでございます。

2005/2/28  08:07  : / 編集

5Re: 胎動(11)

オラシオンさまへ。(1)をお読みいただくことができるようになりました。よろしくお願い致します。

2005/3/1  12:09  : / 編集

6Re: 胎動(11)

さっそくのご配慮、ありがとうございます。
もう一度、最初から、読んでみます。

2005/3/5  11:57  : オラシオン / 編集

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