実況後記。 [山本直の修行日誌]
2017/03/21(火) 11:56 山本 直
こんにちは、山本直です。
お伝えしていたように、20日(月)のフラワーカップでJRAの重賞レースを初めて実況しました。聴いていただいた皆さん、ありがとうございました。
大して緊張もせず、いつも通り......のつもりでしたが、やはり見直せば反省は浮かんでくるもので。今回は長文になりますが、どうぞお付き合いください。

●ファンディーナ

この馬がどういうレースをするのか、に注目が集まっていたと思います。1コーナーに入るあたりで、外めの2番手を確保。ここで少し、岩田騎手が腰を丸めるような動きをしています。初戦、2戦目(川田騎手騎乗)を見ても、手綱を緩めないということはありましたが、騎手が腰を丸めるような動きはしていませんでした。

これが「掛かっている」状態なのか、「掛かる前の予防策」なのか、私には分かりませんでした。ただ、何か言葉を選ぶべきだと思って......

「ファンディーナは2番手の外、この位置で落ち着きを保てるかどうか」

と言って、気付きました。ファンディーナにとってこれまでと同じ1800m戦ですが、京都はいわゆるワンターン(向正面からスタートする)コース、それに対して、この日の中山はスタンド前からのスタート。初めての長距離輸送ということも含めて、掛かる可能性は岩田騎手の頭の中にあったのかもしれません。

公式映像の28秒前後、私が改めてファンディーナが2番手にいるところを伝えた時も、掛かるというほどではないにせよ、岩田騎手が制御するような挙動をしています。

●55秒の壁

スタートして55秒(2コーナーで先頭の馬を紹介して30秒ほど)で全馬の位置取りをおさらいすることが目標でした。実際は57秒。ほぼ想定どおりです。

最近、JRAの公式映像ではレースのラップが判断できる地点(このレースでは前半1000m)のタイムを黄文字で表示しています。我々実況アナウンサーとしても「一時停止」していただけるのは助かります。いつも双眼鏡で追う先頭の馬と、ターフビジョンのタイム表示をひとつの視野に入れられるわけではないからです。

実況としては4秒ほど場をつないだところで(と言っていいのか分かりませんが)、1000mの通過タイムが場内に1分01秒0と出ました。(レース後の発表では1分01秒1)

専門紙に掲載された想定タイムが1分48秒5前後、実際の決着タイムが1分48秒7ですから、1000m1分01秒というのは平均~ややスローになるでしょうか。

(ファンディーナの話ばかりで恐縮ですが、京都で経験したような超がつくスローペースのレースも、超ハイラップのレースも見てみたかったのがいちファンとしての本音でした)

●100mの伸びに震えた

4コーナー手前、シーズララバイが位置を上げたところまで私が紹介したところで、ファンディーナが先頭に立ちます。

ここでファンディーナの伸びを判断するポイントは......
1.ファンディーナがどれだけの勢いでリードを広げるか
2.逃げたドロウアカードの勢いは鈍っているのか

前者については文句なし。後者については、3番手以降の馬がドロウアカードをなかなか交わせないことを考えると、まだ勢いは鈍っていないのでしょう。そう、ファンディーナは、まだ勢いが鈍っていないドロウアカードをあっさりと突き放していったのです。

直線に入る残り310mから200m標識の手前まで、わずか100mの衝撃でした。ここで山本、ファンディーナの強さに見とれてしまいました。

●2着争いの反省

時間が少なくなる残り150mほどから「ファンディーナ!抜けた!これは強い!リードは4馬身!」と、およそ4秒時間を使ってしまいました。
4秒あれば馬は80m走れます。もうゴールまで3~4秒しかありません。

そこで2着争い。時間に余裕があればお伝えしたい馬は2、3頭いました。
・勢いよく2番手に上がれそうなシーズララバイ
・内で逃げ粘っているドロウアカード
・(外からじわじわと迫ってくるエバープリンセス)

ですが、ゴールまでの距離を考えると、言葉に出来る馬は1頭だけ。2着には上がれそうなシーズララバイの名前を言うだけになってしまいました。これは反省。

●"美学"より"情報量"を求めたい

先に書いたように、ドロウアカードの勢いはゴールまでなかなか鈍らず、シーズララバイはようやくゴール手前で交わしての2着確保。
レース映像を見直してみると、ゴール前ギリギリまで、ドロウアカードが2着に残る可能性を感じます。

いろいろな馬券をお持ちの方がいらしたと思いますが、(結果としてハズレになるとしても)ドロウアカード2着の組み合わせを持っている方もドキドキできる実況ができたのではないか、と思います。そのために、上で書いた「ファンディーナの4秒」を減らすべきだったのです。
「ドロウアカードが2番手、外からシーズララバイが並びかける!」というような言葉を入れ込めれば、また違った印象で聞いていただけたと思うのです。

WIN5を除いて、フラワーカップの売り上げが47億3900万円ほど。いま、馬券の売り上げの多くは3連単が占めていますから「3着」には大きな意味を持ちます。
我々がどう言葉を並べようと、レースの結果を動かすことはできませんが、馬券を買っておられる皆さんが消化不良にならないような実況ができれば、という気持ちは重賞も一般レースも変わりません。

●最後になりますが......

SNSや番組宛のメールなど、皆さんが自由に発言できるようになり、私が初めて重賞の実況を担当することを発表して以来、多くの声をいただきました。
ありがたいことに「頑張ってね」とか「楽しみにしています」など、暖かいものばかりでした。本当にありがとうございました。

様々なところで「緊張しますか?」と言われたんですが、残念なことに(?)全くしておりませんで、強いてあげれば馬場入場曲のイントロのどこで声を入れるかとか、聴き慣れた重賞ファンファーレで気持ちが入ったくらいの、全く鈍感な心臓でありました(笑)

重賞を実況する上でありがたいことは、情報入手時間の早さだと思います。枠順確定は2日前、特別登録は前週の日曜日。それだけ塗り絵や馬柱に向かい合う時間を作れるということです。われわれ実況アナウンサーは、どのレースであっても準備は欠かしません。ただ、直前にならないと出揃わないものがあって、物理的な限界があることも事実です。翌日の準備を同時に進めながら実況する土曜日は、パドックの様子を眺める余裕もありません。

そういった点において、重賞レースはありがたい。これが今回の実況経験で得られた最大の収穫です。
これで終わりではなく、これからも実況は続けていきます。

では、また来週!

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